生きる技術!叢書編集部のA藤です。昨年末に発売いたしました
『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(おかげさまで好評重版)以来、しばらく間があきましたが、4月に新刊2冊が発売になります。 その2冊が今回ご紹介いたします、香山リカ著
『「だまし」に負けない心理学』、藤井聡著
『プラグマティズムの作法』です。
『「だまし」に負けない心理学』の香山リカ先生は、精神科医として、大学教授としての活動の傍ら、執筆・講演などで現代人の“心の病”について洞察を続けて……という表の顔(?)とは別に、サイレントマジョリティの声を代弁する立場から、フツーの人の「ほどほどの生き方」を抑圧するようなまがった事態に対しては、果敢に異議をとなえる反骨の人としての顔も持っています。
さかのぼれば湾岸戦争の時に、宮崎哲弥氏などと共に憲法9条擁護のアピールをしたり、「ぷちナショナリズム」に対する違和感を表明したり、近年には「勝間和代を目指さない」のキャッチで、スキルアップへの過剰な強迫観念の蔓延に対する異議申し立てなどもありました。
そして直近では、橋下徹大阪市長の強権的な姿勢に対して「反ハシズム」の論陣を組み、橋本氏から名指しで批判を受ける名誉(?)にもあずかったことも、記憶に新しいところです。
担当編集のA藤は、そうした香山先生の「あえて火中の栗を拾いにいく姿勢」に共感する者の一人ですが、今回の『「だまし」に負けない心理学』は、その香山先生の「反骨精神」がいかんなく発揮された内容になっています。テーマは「だまされない生き方」。
世の中に情報があふれればあふれるほど、どれが正しくどれが間違っているのか、見分けるのがむずかしくなります。人を不安に陥れるような言説もたくさん飛び交うなか、人はいったん不安にとらわれてしまうと、冷静な判断力を失い、正しい情報や科学的な答えをではなくて、不安を取り除いてくれそうな人や言葉を求めてしまいます。そこに「だまし」の入りこむ余地がある。
なぜ人はだまされるのか。それに対抗するためにはどうすればよいのか。占い・予言、マインドコントロールから、〈橋下徹的わかりやすい極論〉まで、危ない言説にだまされない処方箋を、心理学、コミュニケーション理論をもとに解説していきます。
目次はこんな感じです。
1.ウソでもいいから安心させてほしい
2.ひとは自分と近いものを見たがる
3.はずれない予言のからくり
4.洗脳とマインドコントロール
5.〈私〉はどこへ行ったか
6.医療現場のやさしいウソ
7.「全か無か」に傾くネットの言論
8.自分で考えられない時代
9.「わかりやすい極論」はなぜ支持されるか
10.死後の世界があろうとなかろうと
自分の頭で考えて、自分の判断を持って、だまされずに生きる。そのための知恵がたくさんつまった一冊、ぜひご一読をお願いします。
おなじみアジールのデザインに加え、カバーの強烈なイラストは、ジョン&ヨージで人気の「死後」くん。彼の心温まるナイスな作品は、
こちらで読めます。
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一方の『プラグマティズムの作法』の藤井聡先生は、京都大学大学院工学研究科で都市工学を専攻する「土木屋さん」でありながら、かの保守系論客の大御所・西部邁氏が主宰する「発言者塾」に通い(ちなみに村上春樹についての評論でこの塾主催の奨励賞を受賞)、進化心理学、哲学を学び、経済・金融政策にも明るいという、「文理両道」のマルチな才能の持ち主。
また、3.11の東日本大震災に日本がみまわれてからは、震災復興と列島強靭化を訴える『列島強靱化論』『救国のレジリエンス~列島強靭化でGDP900兆円の日本が生まれる』という2冊の本を上梓、さらに京都大学の研究室内に、日本国家の「強靱化」に取り組む「実践的研究/学術的実践」の場として「レジリエンス研究ユニット」を発足させ、現在はそのユニット長も務めておられます。その具体的政策提案として、自民党関係者と共同で「列島強靭化法案」を今国会に提出、計上した200兆円の予算をめぐって、いま審議中でもあります。
ちなみにこの「レジリエンス研究ユニット」が置かれている藤井先生の研究室の同僚には、TTP反対論議の急先鋒・中野剛志氏も在籍しており、お二人共同でTTP反対の論陣を組むこともしばしばです。
その藤井先生の新刊『プラグマティズムの作法』は、現在八面六臂とも言える超人的な活動をなされている先生の、「思考のエンジン」の秘密を明らかにし、多くの人に共有してもらうことで、日本の閉塞状況を打開しようという、力強いメッセージが詰まった本です。
先生はこのように書きます。
21世紀初頭の今日、我が国の至る所を如何ともしがたい「閉塞感」が覆っているのではないかと感じているのは、決して筆者だけではないだろうと思います。
世界に冠たる経済大国・日本というイメージは、経済の低迷によっておおよそ鳴りを潜め、その余波を受けて失業率は増え続け、国民における所得の格差は広がる一方です。その結果、大学まで出ても就職できない若者が街中に中にあふれ返るにまでなってしまいました。そして、学問の府たる大学、アカデミズムの現場でも、文理問わずに「活気」が無くなり、「低俗化/卑俗化」が進行しつつあるように思います。そしてそんな風に感じている若手研究者もベテラン研究者は、かなりの数に達するのではないかと思います。
しかも、そんな暗い時代の風潮の中で、かの東日本大震災が起こってしまいました。その復旧や復興も遅々と進まず、ますますそんな閉塞感は決定的なものとなってしまったようにも思われます。
───もしもこうした「閉塞感」の存在が否定しがたいものであるとするなら、その原因は、次の言葉に集約できるのではないかと筆者は感じています。
「日本を覆う閉塞感の全ての元凶は、日本に、プラグマティズムが不足していることにある」
では、そのプラグマティズムとはいったいどういうものなのか? プラグマティズムがあればほんとうに日本は再生できるのか? ──その問いをとば口に、パース、デューイ、ウィトゲンシュタインの解説から、日本のアカデミズムの停滞、経済、ビジネス、まちづくり・国づくりの現場における堕落の実態、そしてそれを乗り越えるための処方箋に至る、壮大な講義が展開されます。
A藤は、本書の編集を通じて、「So Whatテスト」「Grandmotherテスト」「お天道様に恥ずかしくないかテスト」を自らに課す習慣を身につけ、「本づくりをとおして社会に貢献する」という編集者本来の大義を忘れていないか、「会社のノルマを達成するためにたんなる数合わせの本を作ろうゲーム」や、「読者のニーズとは関係なく自らの趣味趣向で本を作ろうゲーム」に拘泥していないか、チェックするようになりました。まことにありがたい体験でした。
ここでA藤の言う内容がどういうものかを知りたい方は、ぜひとも本書をお読みください。日本の閉塞感を打開する知恵がつまった一冊、生き方の指針を模索している方におすすめです。
なお、藤井先生の研究室HPにて、
本書の「はじめに」と「あとがき」が公開されています。この中に本書のエッセンスが凝縮されておりますので、興味を持っていただけた方は、まずはぜひご一読を。
不思議な空気感が気持ちよいカバー写真は、池田晶紀さん。彼の主催する写真事務所「ゆかい」のWebは
こちら。