まず一冊目は、小田嶋隆さん著『地雷を踏む勇気』です。
担当編集者A藤は、80年代頃にパソコン関係の出版に携わった編集者にありがちな話ですが、小田嶋さんの約20年前の著書『我が心はICにあらず』にガツンとやられたクチです。当時、テクニカルな実用情報を伝えるのみだったパソコン書の世界に、突如カルチャー世界のスピリットを持ち込んだ小田嶋さんのこのエッセイ集を読んで、パソコン的なるものがもたらす可能性の裾野の広さに目をひらかされ、以来デジタルを軸にして様々な分野のアイテムをつなげてみるとどうなるか?……という観点から本を作るのが、一時期のA藤のポリシーのひとつとなったのでした(20年ほど前のお話)。
爾来、小田嶋さんを「悪い兄貴」のような存在としてリスペクトし、その本を愛読してきつつも、これまで一度も編集担当としてご一緒する機会がなかったA藤にとっては、いわば満願かなっての一冊であります。
内容は、「日経ビジネスオンライン」で高い人気を誇る連載「ア・ピース・オブ・警句」からのコンピレーション・エッセイ集。
もともと「この連載を毎週楽しみにしている」という声を、A藤の周囲でもよく聞くくらい質の高いコラム連載だったのですが、ことに3.11の震災以降グッとテンションが上がり、その切れ味は凄味さえ感じさせるものになっています。
大津波の惨状を目の当たりにしての絶望感も、いつまでも収束が見えない原発事故についての不安も、東電や政府の不誠実な対応への怒りも、圧力をもってして人をねじふせようとする輩に対する異議も、そして危機的な状況における言葉の力への信頼も、みな小田嶋さんがこのコラムで代弁してくれていました。3.11以降の不安な日々を過ごす間、この連載にA藤はどれほど助けられたかわかりません。
でも、これはA藤の勝手な思い入れであって、小田嶋さんに面と向かってそんなことを言ったならば、「いや、俺はただコラム書いているだけだから」と軽くいなされるにちがいありません。そこがまたcool。
小田嶋さん、この本についてもしインタビューを受ける機会があったら、このセリフ言ってください。「たかがコラムだけど、俺は好きだね」
というわけで、人生の座右の銘がぎっしりつまった珠玉のエッセイ集。ぜひご一読ください。
なお、同じ「ア・ピース・オブ・警句」をリソースとしたエッセイ集が、日経BP社からもほぼ同時(2週間遅れ)で発売予定です。タイトルは『その「正義」があぶない。』こちらもごひいきに。